第6回高校生が競うエネルギーピッチ

開催日:8月5日(木)、8月26日(木)、10月1日(金)
テーマ:SDGs(持続可能な開発目標)とエネルギー

エネルギー・ピッチ参加校にとっては初めての講義です。2021年度は8月を中心に3回に分けて開催しました。11月の本選に向けて、「SDGsとエネルギーをどう考えるか」「どのようにテーマを選定するか」「いかに発表内容を固めていくか」などについて講義が行われました。講師を務めた総合コーディネーターの開沼博氏(東京大学大学院 情報学環 学際情報学府 准教授)は、歴史の転換点にはエネルギーが常に関わっており、エネルギーは社会課題を解決する道具であることなどを説明。また、発表プランの検討に向けてFact(事実)をきちんと押さえるとともに、「全体像を把握しながら具体案を深めていくことが大切」などのアドバイスが行われました。

総合コーディネーター開沼博先生によるリモート講義

開催日:9月14日(火)、9月18日(土)
テーマ:SDGs達成に向けたエネルギー分野の可能性と課題

金田武司氏(ユニバーサルエネルギー研究所社長)に、国内でのエネルギー利用の変遷と歴史的背景、SDGsと日本のリサイクル文化、日本のエネルギー政策や電源構成、エネルギー自給率などを解説して頂きました。金田氏は我々の生活にとってエネルギーが欠かせないものである一方、日本は資源がほとんどなく、他国とエネルギーインフラがつながっていない特殊性を強調。石炭やLNG(液化天然ガス)だけでなく、太陽光や風力もほとんどの部材が海外製で、実態は「輸入」に頼っていることなどを説明して頂きました。高校生からは二酸化炭素(CO2)の有効活用方法、国際送電網や核融合発電の可能性など多岐にわたる質問がありました。

金田武司先生によるリモート講義
参加高校と東京の講演会場を結んだオンライン形式で実施

【オンライン講義】
開催日:9月下旬~11月中旬 学校ごとに個別開催

【高校生が競うEnergy Pitch!参加校+WWL連携校の合同講義】
開催日:10月30日(土)
テーマ:SDGsから見た次世代バイオ燃料と今後の可能性 (注)WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)は文部科学省の教育プログラムで、三島北高校と拠点校として、静岡高校、沼津東高校、静岡市立高校の3校が連携校に指定されています。

エネルギー・ピッチでは本やネット情報を単に調べるだけでなく、自分たちの研究テーマについて、第一線の研究者などとの対話を行う場を設けていることが特徴です。今年度もコロナ禍の影響からオンラインでの講義が中心となりましたが、講師の方からは「太陽光の中で電力として利用が十分でない赤外線に着目していることは素晴らしいと思いました。質問のレベルも高く、とても良い刺激を頂きました」(NTTアドバンステクノロジ株式会社の中村二朗氏)、「踏み込んだ質問があり、よく勉強しており、課題に真剣に取り組んでいる」(株式会社カネカの福田竜司氏)との声がありました。

高校名 講義の内容 ご対応頂いた企業・大学・機関
三島北高校 核融合発電について
水素社会の実現に向けて
・量子科学技術研究開発機構
・ENEOS株式会社
駿河総合高校 生分解性プラスチックの仕組み
プラスチックと人類・環境との共存
・株式会社カネカ
・東京大学大学院 高分子材料学研究室
浜松開誠館高校 日本の太陽光発電開発戦略
無色透明発電ガラスの仕組み
・新エネルギー・産業技術総合開発機構
・NTTアドバンステクノロジ株式会社
静岡聖光学院高校 地域防災をはじめとした新たな地域モデルのあり方
再生可能エネルギーについて
・TNクロス株式会社
・九州電力株式会社
科学技術高校 雷のメカニズムと電気・エネルギー利用の可能性 ・音羽電機工業株式会社
Energy Pitch!参加校+
WWL連携校との
合同講義(計5校)
SDGsから見た次世代バイオ燃料と今後の可能性 ・株式会社ユーグレナ
・鈴与商事株式会社

また、10月30日にはエネルギー・ピッチ参加校と静岡県のWWL連携校の計5校が常葉大学(静岡市)に集まり、次世代バイオ燃料の合同講義を開催しました。講師を務めた株式会社ユーグレナ・執行役員の尾立維博氏、鈴与商事株式会社・取締役の大野裕之氏は、ミドリムシを使った次世代バイオ燃料の可能性、静岡でも導入が始まったバイオディーゼル燃料などを説明。当日は小瓶に入った航空機用の次世代バイオ燃料を手にとって見てもらい、高校生からも「学校ではバイオエタノールを課題研究で取り組んでいるが、それ以外にも良いバイオ燃料があることが知れてよかった」(静岡市立高校)といった感想が聞かれました。講義終了後も講師の方々に熱心に質問をする姿が見られました。

Energy Pitch!参加校とWWL連携校との合同講座
燃料サンプルを手にする参加高校生
東京大学大学院、岩田忠久教授によるリモート講義

開催日:11月20日(土)
場所:静岡駅ビル・パルシェ会議

2021年度の予選会は、静岡駅ビル・パルシェ会議室で行われました。また、予選会の前にはオープニングランチが開催され、参加高校の教諭・生徒、審査委員が自己紹介を行い、昼食をとりながら歓談が行われました。
予選会はこれまで研究を進めてきた内容を初めて発表する場ですが、当日出された審査委員や他校の教諭・生徒からの意見や指摘を踏まえ、それぞれの発表内容をブラッシュアップすることが目的です。
審査委員からは「内容が教科書的なので、もっと自分たちの考えを」「データは出所も明記し、グラフなどで簡潔に」など多くのアドバイスが出ました。15分間という時間内に発表が終わらなかった学校もあり、発表の仕方などについても助言が聞かれました。高校生たちはそれぞれの発表内容に対する指摘を整理し、修正作業を夜遅くまで続けました。

審査委員の質問に答える三島北高校
予選会前のオープニングランチ
本選に向けてプレゼン資料をブラッシュアップ
修正作業は夜遅くまで続いた

予選・本選では「グラフィックレコーディング」を導入しています。各校の発表内容を聴きながら、その要点を絵にしていくことで「見える化」し、当事者も気づかなかったことを視覚的にとらえることができる仕組みです。発表内容のポイントが描かれた各校のレコ―ティング・ペーパーは、疑問や指摘が記された付箋でいっぱいになりました。

疑問や指摘が記された付箋
発表内容のポイントが描かれたレコーディング・ペーパー
予選会会場

開催日:11月21日(日)
場所:静岡県立大学・大講堂

いよいよ本選です。会場は静岡県立大学の大講堂。今回は新型コロナウイルスの状況を踏まえ、ごく少数ですが傍聴可能の形で実施しました。冒頭、総合コーディネーターの開沼博氏がフィールドワークの実施内容など、これまでの学習の経過を説明しました。その後、各校代表者によるくじ引きで5校の発表順が決定。各校は前日からブラッシュアップした内容をそれぞれ発表しました。なかにはスライドを8割変えた学校も。質疑応答では内容やデータの妥当性、コストに対する認識を巡り、審査委員との間で踏み込んだやり取りが繰り広げられました。
 常連校と初参加校という違いはあったものの、レベルが高い発表内容に来場者も熱心に耳を傾けていました。厳正な審査の結果、SMR(小型モジュール炉)や核融合発電で水素を製造して鉄鋼や輸送のCO2削減を提案した三島北高校が僅差で最優秀賞に輝きました。同校は出場3回目で悲願の栄冠に。この他、優秀賞には駿河総合高校、浜松開誠館高校、静岡新聞社賞は静岡聖光学院高校、電気新聞賞には科学技術高校がそれぞれ選ばれました。

発表順を決めるくじ引き
前日からブラッシュアップした内容を発表
三島北高校が悲願の栄冠に
発表を聴く審査委員
本選終了後の集合写真

三島北高等学校

発表テーマ:「Fantastic Future ~魔法のエネルギーたち~」
指導教諭:山梨 睦
研究メンバー:植松湧太郎、尾崎裕絃、田中圭、谷口颯翔、土谷祐貴、山口蒼太

地球温暖化問題を解決するため、次世代のエネルギーで水素を作って活用することを提案したい。鉄鋼業では製造方法に水素還元、輸送部門ではトラック燃料に水素を使う。特に、輸送トラックは電気自動車(EV)化してしまうと積載量が減ってしまう可能性がある。両部門は二酸化炭素(CO2)排出量が多く、水素を活用すればCO2が大幅に削減できる。ただ、現状では水素のコストは高いほか、化石燃料で製造されているという課題がある。このため、水素製造には世界で急速に開発が進むSMR(小型モジュール炉)を使う。それには国民の理解を得ることが必要だが、それでも放射性廃棄物の問題は残る。これらの課題を解決する方法として核融合発電を提案したい。核融合発電は安全性が高く、高レベル放射性廃棄物が出ないなどのメリットがある。ビル・ゲイツ氏なども核融合関連のベンチャー企業に投資しており、ITERプロジェクトも進んでいる。日本にはその技術があり、これを実現すれば世界的にエネルギー先進国として認知されるとともに、日本全体のカーボンニュートラル達成に向けた大きな一歩になる。

駿河総合高等学校

発表テーマ:「生分解性バイオマスプラスチック生産と分別リサイクルの確立」
指導教諭:清水 隆弘
研究メンバー:大瀧彩音、久保田海央、小玉日遥乃、白鳥愛奈、髙山遥、髙山結、戸塚彩姫、宮下侑大

既存のプラスチックは石油が原料であることによる生産・焼却時のCO2排出、海洋ごみ問題、マイクロプラスチック問題などの課題がある。このため、CO2排出の課題にはバイオマスプラスチック、海洋ごみ問題やマイクロプラスチック問題には生分解性プラスチックで対応していくことが重要と考えた。生分解性バイオマスプラスチックのうち、カネカ生分解性ポリマーを例に提案したい。普及にはコスト、耐久性・加工のしやすさ、分別回収などが課題となる。コストは本格普及に伴うメリットや生分解性の持つ様々な利点を付加価値とすることでカバーする。耐久性・加工のしやすさの課題は、使用用途に合わせて普及させていくことが大切だと考えた。また、分別回収を促進するために重量測定が可能な回収ボックスを設置し、電子ウォレットにポイント付与・換金する仕組みを取り入れる。さらに、マテリアルリサイクルの観点から生分解性バイオマスプラスチックを固形燃料化し、エネルギー自給率向上にもつなげる。

浜松開誠館高等学校

発表テーマ:「太陽光窓ガラス」
指導教諭:加藤 幹大
研究メンバー:小杉太一、古川裕紀、松下倖大、柳沢勇輝、山田裕翔

再生可能エネルギーの中でも太陽光発電は世界中で使える枯渇しないクリーンなエネルギーとして重要だが、設置時の森林伐採の懸念や可視光だけの発電にとどまるといったデメリットがある。そこで、赤外線や紫外線を活用して発電する無色透明発電ガラスを提案する。まず太陽光の65%を占める赤外線で発電すれば、太陽エネルギー資源をより有効に活用できる。設置方法によっては表、裏の両面や斜めの太陽光を利用することも可能となる。また、既存の建物の窓に取り付けていけば、森林伐採によるCO2吸収量の減少が回避できる。室内が暖められる原因となる赤外線をガラスで吸収するので、室内の温度上昇の抑制にもつながる。さらに、将来的に紫外線を活用して発電すれば、窓ガラスで紫外線を吸収できるので、皮膚がんなど健康問題の解決にもつながる。窓ガラス発電を適用していく例としては、バスなど公共交通機関の窓、信号、腕時計などが挙げられる。このような身近なアイデアを考えていけば、窓ガラス発電は2050年カーボンニュートラル達成への糸口になる。

静岡聖光学院高等学校

発表テーマ:「0円ソーラーに関する新たなビジネスモデルの提案」
指導教諭:榊原 正信
研究メンバー:菊池明己人、飛石悠太

0円ソーラーに関する災害の多い静岡から始まる新たなビジネスモデルを提案したい。フィールドワークを経て、僕たちは再生可能エネルギーの発電量増加、エネルギー自給率の向上、南海トラフなどの大規模災害時の電力維持が課題と考えた。そこで太陽光発電パネルと蓄電池を各家庭にとりつけることが必要と考えた。ただ、実際に設置できるのは一部のお金持ちだけになる可能性がある。このため、0円ソーラーという新たなビジネスモデルでは、太陽光を設置する企業が家電量販店や電気自動車(EV)の販売店と提携し、家電の割引やEVとのセット販売などのサービス優遇を行い、毎月レンタル料を支払う一般家庭のメリットを増やす。静岡県は日照量が全国で3位、車の保有台数も10位と事業環境的にも恵まれている。実際のサービスには知名度・信用が課題だが、コンビニ大手は防災拠点の役割を担うことで、企業のイメージアップ向上への投資をしており、実現可能だと考えている。

科学技術高等学校

発表テーマ:「雷は授ける。(かもしれない・・・!)」
指導教諭:内田 匡
研究メンバー:原島裕一、丸山心、矢部愛斗

なぜ雷のエネルギーを使えないのかという疑問をかつて抱いたことをきっかけに、未利用エネルギーの可能性などを研究した。まず雷のエネルギーが本当に使えないかを調べた。雷のエネルギーは大きいが、あまりにも高電圧で、一瞬にして電流が流れるので、送電することはできない。コスト的にも難しい。一方、南米北部のマラカイボ湖では年間300日以上、落雷が発生している。仮に、雷のエネルギーが使えるようになれば有望な地域と考えられる。雷をベースロード電源として活用することはやはり難しいが、ミクロな世界では大気中から電気を取り出すといった新しいエネルギーの研究が行われている。例えば、大気中の微粒子が湿度が大きいほど電荷を帯びるという「湿度電気」、湿度の差でミリ・アンペア・レベルの電流を生成する「湿度変動電池」、雷雲の前に弱い電流が流れる「大気電流」といったものがある。2050年に向けて社会の開発への期待を高めるために、これら技術にも興味を持ってもらいたい。

山本 隆三氏 常葉大学 名誉教授
高校生のみなさんの考えることや勉強内容のレベルが毎年上がっています。今回はものすごく僅差で、予選のコメントの差によって三島北高校が最優秀賞に輝きました。大学入ったらゼミや研究室で今回と同じようなことをするので、こういう経験は将来必ず役立つと思います。これからも、ぜひSDGsやエネルギーのことを考えて学生生活を送ってください。

萱野 貴広氏 静岡大学教育学部 教務
今回の発表内容は多岐にわたっており、とても楽しかったです。現代的な諸課題はいろいろとあります。その大きな一つであるエネルギー問題に真剣に取り組んだ経験は、将来の日本の中核を担う高校生のみなさんの財産になるかと思います。今回の経験をゴールとせず、スタートとして生き生きと生き抜いてもらいたいです。

間庭 正弘氏 日本電気協会新聞部(電気新聞) 新聞部長
やはり1人1人が調べて、考えて、他の人に向かって発表し、意見を頂くことがとても大切なことだと思います。特に、人の前で言うということ自体が、実は次の時代に向けての行動の始まりだと思います。今回で終わりではなくて、これからも考えて行動するということ続けて欲しいと思います。

築地 茂氏 静岡新聞社 編集局論説委員兼編集委員
成長の過程だと思うが、予選と本選で発表内容の差が大きいことに驚きました。やはり高校生は吸収力もすごいし、修正能力も高いと感じました。エネルギーの問題は理系・文系、男性・女性の差はなく、誰もが取り組まなければなりません。エネルギーは発電所から家庭のキッチンまで多岐にわたっているので、どこかで取り組める内容があると思います。今後もなるべく自分事ととらえて取り組んでください。

開沼 博氏 東京大学大学院 情報学環 学際情報学府 准教授(総合コーディネーター)
今回は三島北高校や駿河総合高校という常連校の評価が比較的高い結果になりました。ある学校ではOBが指導に来てくれたりしており、積み重ねていくことで次の一歩が踏み出しやすくなることがあります。そういう意味では、蓄積の大切さが結果として見える形になったと思います。また、今回は参加者や発表内容に多様性が出てきたことも良かったと感じています。特に、5校の発表内容が重ならなかったのは、高校生のみなさんが普段からいろいろなことに関心を持っているということの表れだと思います。今後も学習を続けていき、自分自身の学びや人生を豊かなものにしていってもらいたいと思います。