第6回高校生が競うエネルギーピッチ

共通活動

開催日:8月5日(土)、8月10日(月)
開催形態:Zoomによるオンライン講義+質疑応答

 2023年度もオリエンテーションとエネルギー基礎講座を組み合わせた講義を8月に開催しました。エネルギー・ピッチに参加する高校生にとっては初めての講義です。オリエンテーションでは、開沼博先生(東京大学大学院 情報学環 学際情報学府 准教授)からエネルギー・ピッチの発表に向けた心構え、エネルギーは歴史の転換点と密接に関わっており、社会課題を解決する道具でもあることなどについて講義をして頂きました。エネルギー基礎講座では竹内純子先生(国際環境経済研究所理事・主席研究員、東北大学特任教授、U3innovations合同会社・共同代表)からエネルギー問題の基本から始まり、エネルギー政策と気候変動問題との考え方の違い、ビジネス的な視点の重要性、2050年のエネルギーを考える上でのヒントなどについて丁寧に解説して頂きました。

開沼先生のオリエンテーション講義
竹内先生のエネルギー基礎講座の様子
質疑応答では活発なやりとりが行われた

開催日:8月24日(木)
開催形態:リアル開催(会場:グランシップ/静岡コンベンションアーツセンター10階会議室)

 2023年度は新たな試みとして、夏休み期間中に参加校すべてが参加するイベントを開催しました。
[当日プログラム]
①エネルギー合同講座 「AIがもたらす社会インフラ変革の可能性」
 講 師:中村秀樹氏(株式会社グリッド取締役・事業開発本部長)
②エネルギー・ピッチOB/OGを交えた交流会
 登壇者:三島北高校OB/OG、科学技術高校OB、中村秀樹氏(株式会社グリッド取締役)、郡司賀透氏(静岡大学学術院教育学領域准教授)、司会:山田真(電気新聞)
③クイズ大会 
 メンバー無作為の8チームで予選、上位4チームで決勝を競い合った。

 エネルギー合同講座はワークショップ形式で開催しました。講師の中村氏からは社会インフラの計画業務は複雑な一方で効率化が求められており、そこにAIが活用できることなどを説明していただきました。その上で、AIの特徴の一つである「パターン認識技術」(機械学習)を、キャラクターや映像を例に教えていただきました。また、過去にあった歴史的事故を例に、AIでデータの特徴に応じて色や形でグループ分け(クラスタリング)したデータから何がわかるのか、生徒がみんなで考え発表しながら学びました。交流会では過去にエネルギー・ピッチを経験した大学1年生の3人が登壇。現役高校生にエネルギー・ピッチの発表に向けたヒントを与えていただきました。最後に、懐かしのクイズ大会のセットを用いたエネルギー・環境関連のクイズ大会を開催し、盛り上がりました。

交流会では大学1年生の3人がエネルギー・ピッチの経験談を語った
本格的なセットを用いて盛り上がったクイズ大会の様子
ワークショップ形式でAIのことを学んだ
株式会社グリッドの中村氏

【学校ごとの個別開催】
開催日:10月中旬~11月上旬 学校ごとのテーマに応じて順次実施

 フィールドワークは参加校がそれぞれ決めた研究テーマに応じて、大学・企業の第一線の研究者や担当者などと直接対話を行う場です。
 基本的にはオンライン講義が中心ですが、2023年度は学校での講義も2回開催しました。講師の方からは「次世代を担う高校生のみなさんと真剣なディスカッションができ、大人にとっても「学ぶ」意欲や姿勢について、改めて大切なことだと考えさせられました」(アーキアエナジー株式会社の大橋徳久取締役)、「風力発電の原理や課題などについて熱心な質問が寄せられ、とても意欲的に聞いてくれたと感じました」(株式会社ユーラスエナジーホールディングス広報IR部の福田好成氏)との声がありました。

高校名 講義の内容 ご対応頂いた
企業・大学・機関
御殿場南高校 「やさいバス」を通じた農業の現状と課題解決への考え方
  • 株式会社エムスクエア・ラボ
    代表取締役CEO 加藤百合子氏
バイオガス発電事業について(現地講義)
  • アーキアエナジー株式会社
駿河総合高校 アンモニア発電の大規模化に向けた供給体制(現地講義)
  • 国際環境経済研究所・主席研究員
    塩沢文朗氏
JERAが目指すゼロエミッション2050
  • 株式会社JERA
榛原高校 原子力発電の使用済燃料でラジウム/ラドン (トロン)温泉はできるか?
  • 日本原子力研究開発機構(JAEA)
三島北高校 将来の電力システムと風力発電の役割
  • 岐阜大学・地方創生エネルギーシス テム研究センター 浅野浩志特任教授
風力発電事業について
  • 株式会社ユーラスエナジーホールディングス
焼津中央高校 多様な炭素資源の有効利用に資する触媒反応プロセスの開発
  • 東京工業大学 横井俊之准教授
人工光合成の価値と可能性
  • 三菱ケミカル株式会社
科学技術高校 日本の太陽光発電開発戦略(録画視聴)
  • 新エネルギー・産業技術総合開発機構
太陽光発電の現状と将来、電力システムとの関係
  • 東京理科大学 植田譲教授
御殿場南高校で行われたアーキアエナジーの講義風景
オンラインで行われた焼津中央高校への東京工業大学の横井准教授の講義

開催日:11月11日(土)
場所:静岡県男女共同参画センター「あざれあ」2階大会議室

 2023年度の予選会会場はJR静岡駅近くの静岡県男女共同参画センター「あざれあ」でした。予選会の前にはオープニングランチが開催され、参加校の教諭・生徒が自己紹介を行い、昼食をとりながら歓談が行われました。予選会はこれまで探究活動を進めてきた内容を初めて発表する場です。各校の発表に対しては、審査委員や他校の教諭・生徒から意見や指摘が出されます。それを踏まえ、それぞれの発表内容をブラッシュアップすることが目的です。ときには厳しい指摘も出ますが、客観的に自分たちの発表内容に何が足りないかが明確になります。また、15分という長いようで短い時間の中で、自分たちの発表内容の要点をいかに的確に伝えられるかもポイントです。それだけに、発表内容だけでなく、発表の仕方などについても助言が聞かれました。高校生たちは発表内容に対する指摘を整理し、チームでディスカッションをしながら手分けして調べ物をするなど、夜遅くまで修正作業を続けました。

発表順は各校代表者によるくじ引きで決める
予選会で発表する榛原高校の生徒

 エネルギー・ピッチの特徴の一つが予選・本選で導入している「グラフィックレコーディング」です。各校の発表を聴きながら、その要点を第三者の視点から絵にしていきます。発表内容の「見える化」だけでなく、発表で何が欠けていたのかなど当事者も気づかなかったことを視覚的にとらえることができる仕組みです。予選会では審査委員や他校の教諭・生徒からは率直な疑問や指摘も多く出され、例年、グラフィックレコーディングのボードは付箋でいっぱいになります。

他校の発表に対して、生徒らがふせんに書いた疑問点や意見を貼っていく
各校の発表内容はグラフィックレゴーディングで要旨が描かれる
予選会の会場
発表後の修正ミーティングでは、審査委員の助言も聞きながら内容を改善していく

開催日:11月12日(日)
場所:静岡県男女共同参画センター「あざれあ」6階大ホール

 2日目の本選は正式な発表の場で、今回の会場は「あざれあ」6階大ホールでした。まず総合コーディネーターの開沼博氏がこれまでの探究活動の経過、各校のフィールドワークの実施状況、予選会の様子などを説明しました。各校は昨日の予選会で出た指摘などを踏まえ、不足していた部分を補ったり、スライドを変えて論旨をより明確にするなど、それぞれラッシュアップした内容を発表しました。質疑応答では発表内容の妥当性や実現可能性、コストに対する考え方など、審査委員から次々と質問が。発表内容はアンモニア発電、浮体式洋上風力発電と海洋プラスチック回収、放射性廃棄物の活用、農業とバイオガス発電、太陽光発電と蓄電池、メタネーションなど多彩で、来場者の方々も各校の発表に聞き入っていました。
 厳正な審査の結果、メタネーションを推進することで、焼津の浜を守るという提案した焼津中央高校が2年連続で最優秀賞に輝きました。この他、優秀賞には初参加の御殿場南高校、敢闘賞には三島北高校、駿河総合高校、静岡新聞社賞は科学技術高校、電気新聞賞には榛原高校がそれぞれ選ばれました。

前日からブラッシュアップした内容を発表した
発表ごとに審査委員との質疑応答が行われた
2年連続で最優秀賞に輝いた焼津中央高校の生徒と先生
全体での記念撮影

焼津中央高等学校

発表テーマ: 「メタネーションの推進~焼津の浜を守りたい~」
指導教諭:宮本祐希
研究メンバー:塩谷真子、齊藤彩心、司城かなみ、佐野めい、堀内小夏、増本佳奈

 メタネーションを推進することでCO2の増加と海面上昇を阻止し、焼津の浜を守りたい。天然ガス(メタン)は様々な分野で活用されているが、CO2を排出する。メタネーションは水素とCO2からメタンを合成する技術で、CO2は排出と回収で相殺される。合成メタンは都市ガス導管などの既存インフラが活用でき、大きな可能性がある。ただ、水素の供給やCO2の分離・回収といった課題がある。焼津市を例に計算した結果、1日の電気を賄うには約420トンのメタンが必要。そのメタンを作るには210トンの水素と1155トンのCO2がいるが、グリーン水素のコストは高い。
 そこで、私たちはソーダ工場などで出る副生水素を活用することを考えた。日本では年193万トンの副生水素があり、静岡県内でも海水を水力発電で電気分解している企業がある。これが使えればグリーン水素を作るコストを削減できる。また、CO2回収方法としてはCO2分離膜と化学吸収法に着目した。化学吸収法では、海水の電気分解でできる水酸化ナトリウムも吸収剤として有効活用できる。焼津市のごみ焼却場で出るCO2と静岡県内の企業で出る副生水素を活用すれば、カーボンニュートラルガスができる。都市ガスの90%を合成メタンに置き換えれば、年8千万トンのCO2削減効果がある。2050年の合成メタンの目標コストが実現できれば、CO2が循環でき、焼津の浜が守れて洪水の被害地域を減らすことにもつながる。

御殿場南高等学校

発表テーマ: 「新たな農業体系とバイオガスによる新6次化戦略」
指導教諭:芹澤光
研究メンバー:後藤祐貴、松田共生、井上正太、江藤慎一郎、近藤彩翔、若林未希哉

 僕たちの考える新6次化戦略とは、農業の危機にエネルギーを掛け合わせることで、地域循環型社会の発展によって農家の所得を上げていける。農家の減少は御殿場市だけでなく、日本全体の大きな課題だ。現在の6次化は生産者が加工、流通・販売までを手掛けることで、農家の所得向上や地産地消の推進を図るものだ。ただ、6次化は認定件数が減少傾向にあり、農家の所得向上などに必ずしもつながっていない。そこで、僕たちは地域の活性化を目的に、地元企業と農家が相互連携する未来の生産者の形を考えた。また、消費者も健康志向や食品ロス問題に対する意識が高く、今後は生産者と消費者が地産地消への思いが強くなるだろう。ただ、生産者も消費者も農業残渣や食品ロスが出る。これらをバイオガス発電に活用して、農家の所得向上につながる地域循環型社会をつくることを新6次化と名付けた。
 バイオガス発電には農業残渣と食品ロスに対応した化学的ガス化方式を使い、その過程で出る残渣は肥料、CO2はハウス栽培として活用する。具体的には、静岡県内で1年間に出る食品ロスで発電すると、一般家庭の約3150世帯相当の発電量になる。ただ、輸送コストが課題となるため、地域で未利用の下水汚泥によるメタン発酵を活用する。そのメタンを発電やトラックの燃料として活用する。新6次化を達成すれば、地域循環型社会をいち早く実現した自治体として有名になり、ますます農業や地域が盛り上がるだろう。

三島北高等学校

発表テーマ: 「魚と生きる洋上風力発電~海藻と音波によるマイクロプラスチック回収~」
指導教諭:堀池志帆
研究メンバー:馬場柚乃、原田実祈、冨岡真帆、井手咲希、吉井梨里子

 私たちは浮体式洋上風力発電と海洋プラスチックの回収を掛け合わせることを研究した。浮体式洋上風力発電はCO2を排出しないだけでなく、自在に向きを変えられるので風の力をより効率的に利用できる。騒音や日照の問題もない。ただ、漁業者からの協力を得ることが難しいことから、着目したのがマイクロプラスチックの回収だ。2050年にはマイクロプラスチックの量が魚の重量を上回るとされており、様々な被害が懸念されている。これが回収できれば海岸環境の保全と再生、3Rの促進、環境保護に対する意識の向上が期待できる。
 浮体式洋上風力発電と海洋プラスチック回収の組み合わせは、コストを補う付加価値がある。その一つとして、浮体式洋上風力発電と海藻、音波を組み合わせた「浮海音(不快音)」と呼ぶ回収方法を提案したい。海藻は水中の係留チェーンの隣のひもに掛け、マイクロプラスチックが付着したものはメンテナンスなどの際に引き上げて取り替える。海藻は海岸に漂着して海岸ごみとなったものを使用するため、悪臭や埋め立ての問題解決にもつながる。一方、魚への影響をなくすため、魚が嫌いな音波を水中のスピーカーから流して風力発電から遠ざける。さらに、既に市販されているマイクロプラスチック回収装置を取り付ける。これらの電気は浮体式風力発電の電力を活用する。まずは長崎県五島市で試運転することで、2050年には浮体式風力発電を普及させ、海洋環境の改善も実現させたい。

駿河総合高等学校

発表テーマ: 「廃棄物から生み出すエネルギー」
指導教諭:高辻倫江
研究メンバー:大木敬翔、菊池晃祐、鴻池信一郎、高松柾慶

 僕たちは今まで捨てられてきた、し尿からアンモニアを製造し、避難所に供給することで少しでも救える命を増やすことを提案したい。2050年には再生可能エネルギーやCO2フリー燃料が増え、これまでのエネルギーの役割を担っていくと思う。ただ、日本はエネルギー自給率が低く、化石燃料への依存度が高いという課題を抱える。政府は「S+3E」や2050年カーボンニュートラルの政策を進めているが、エネルギー自給率の対策はあまり実施されていない。このため、し尿からのアンモニア製造方法を考えた。
 下水からアンモニアを抽出するには、現在可能なアンモニア・ストリッピング法はコストが高い。ヘキサシアノ鉄酸銅を用いたアンモニウムイオン吸着材を使えば、コストが安くて済む。仮に、日本全国の下水処理場でアンモニア回収できるすると年1万2590トンとなり、アンモニア20%混焼時で静岡県川根本町1年分の電力に相当する。し尿は本来捨てられているものを活用できるだけでなく、アンモニア製造時にもCO2をほとんど排出しないなどのメリットがある。一方で、下水処理場は全国に点在しているので、アンモニアの運搬コストがかかり集約しづらい。このため、私たちは都市部の下水処理場に避難施設を作り、そこでアンモニアを製造・備蓄することを提案したい。災害停電時などにアンモニア発電で供給すれば、命をつなぐために必要なエネルギーとして期待できる。

科学技術高等学校

発表テーマ: 「太陽光発電が照らす農業」
指導教諭:内田匡
研究メンバー:藤原義人、飯田希、中川雄心、永谷朋之、橋爪颯太、服部健太、望月冬弥

 静岡を含む農業に関わる提案をしたい。僕たちが思い描いたのは、太陽電池と蓄電池を併用し、温室ビニールハウス栽培と組み合わせることで、季節を問わず栽培できる未来の農業だ。蓄電池にはスウェーデンの企業が開発したグリッドスケールを使い、岩に蓄熱したものを水で循環させ、温室の温度管理に使う。グリッドスケールはリチウムイオン電池に比べて蓄電時間も長い。また、太陽電池には薄くて加工しやすく、曇の日でも発電可能なペロブスカイトを採用する。これらを組み合わせて普及していくことで、イチゴやメロンなど静岡の特産品の供給を増やすなど、農業の活性化とエネルギーの自立を両立できる。
 現在の農業の課題は、収入が安定せず農家が減少していくことにある。また、農業を放棄した後に荒れた土地が増えていくことも問題だ。このため、農業放棄地にグリッドスケールを配置し、その周辺に温室ビニールハウスやペロブスカイト太陽電池を構築する。余った電気は遠方の農地や災害時のエネルギーとしても活用すれば、農家の収入増加にもつながる。日本では太陽光発電の普及が進んでいるが、2050年に向けて農業でもさらに活用していくことで、化石燃料に替わるエネルギーとして一層の普及が期待できる。グリッドスケールも農業分野での活用が確立できれば、将来的には小型化の実現などが予想される。太陽だけに2050年の未来を照らしていく技術になると信じている。

榛原高等学校

発表テーマ: 「ラジウム温泉で社会的受容性を高める~使用済み燃料の活用~」
指導教諭:北川浩
研究メンバー:池田悠真、新連真、岩﨑陸真、小柳津瑛介

 私たちは原子力発電の社会的受容性を高めるために、放射性廃棄物を利用することができることを提案したい。世の中には原子力発電に対して正しい知識を持たないまま非難する人も一定数いると思うが、それでは安全性が確保されても原子力発電のイメージが変わらない限り推進することは難しい。このため、まず青森県六ケ所村にラジウム温泉を開設し、将来的には全国に作ることで社会的受容性を高めたい。そして2050年カーボンニュートラルの実現を目指したい。
 ラジウム温泉には体の免疫力が上がるなどの効能があり、地域の娯楽施設として経済効果も見込める。放射性廃棄物の一部を活用してラジウム温泉を作るには、使用済み燃料からラジウムになる前のトリウムを採取する必要がある。JAEAの研究では分離技術を使えば、六ケ所村に運ばれる使用済み燃料からラジウム温泉に活用できる十分な量のトリウムが採取できることが分かった。廃棄物全体に占めるトリウムの割合は大きくないので、廃棄物の量を減らすことにはつながらないが、少量でもリサイクルをすることが可能ということを知ってもらいたい。こうした原子力発電由来のラジウム温泉を実現することは技術的には可能だが、コストや法規制などの課題もある。まず六ケ所村にラジウム温泉を作り、2050年までにこうした課題が解決できれば全国で設置することが可能になり、原子力発電の社会的受容性を高めることになると思う。

山本 隆三氏 常葉大学名誉教授
 今年は昨年と比べると飛躍的に発表内容のレベルが上がったと感じました。最優秀賞の焼津中央高校はメタネーションに着目しましたが、内容がよくまとまっていました。探究活動の中で話を聞いたら、それが本当なのか自分で確かめることが大切です。また、英語で調べることも非常に重要で、情報量は飛躍的に増えます。これからも自分で調べて疑問を持ち、そして自分で考えることを大切にしてください。

郡司 賀透氏 静岡大学教育学部准教授
 今年の発表は「テクノロジーを組み合わせている」、「下水や循環型の社会からエネルギーを考える」、「地域の課題を解決するためにエネルギーを考える」といった傾向があったと思います。地域の課題は世界規模の課題にもなります。今回参加された生徒さんは、ぜひ後輩に今回の枠から飛び出るような新しいアイデアを伝えて欲しいと思います。

築地 茂氏 静岡新聞社編集局論説委員兼編集委員
 予選会を踏まえて最後に生徒さんが必死で頑張れるのは、生徒さんの明日を見据えている力だと思います。予選会では厳しい指摘もありましたが、それは一瞬のことです。エネルギー・ピッチでの経験は他ではあまりできないことなので、みんなで頑張った思い出は一生ものです。この経験を自分の糧として、今後の学校生活や自分の将来に生かして欲しいです。

間庭 正弘 日本電気協会新聞部(電気新聞)新聞部長
 予選会後、みんなで真剣に話し合っている姿に感銘を受けました。これからの社会課題は1人では解決できないことばかりです。グループで議論すれば何らかの解決策が見えてくると思うので、こうした経験を違う場でも繰り返してもらいたいです。また、自分で考えたことや気づいたことは、声に出したり、字にして発表することが大切です。いろいろな形で世の中に発信し、社会課題の解決につなげていってもらえればと思います。

開沼 博氏 東京大学大学院情報学環准教授(総合コーディネーター)
 非常に濃密な2日間だったと思います。個人的には、予選会で出た疑問に対して、本選で答えられているかどうかが判断基準になりました。つまり、最後まで考え抜いてみるという知的体力があるのかというところでわずかな差が出ましたが、そこが個人の成長につながる部分だと思います。これから今回の経験を学問的な研究につなげていってもらいたいです。学問的な研究では「明確な問いがあるか」、「不変性があるか」が大切です。自分で問いをきちんと立てて、その解決策がうまくいき、そこに不変性があったら、それは地域レベルにとどまらず、世界中の人を助けることにつながるかもしれません。今回、みなさんは問いと不変性のヒントを得たと思いますので、ぜひ高校・大学でも追求していただければと思います。

 2023年度から新たに「動画審査部門」を創設しました。今回は2校・3チームから応募があり、各チームはオリエンテーションやエネルギー基礎講座、夏の学びと交流会を経験した後、自ら調べ学習をしたり、外部連携講師とのディスカッションなどを通じて、自分たちの発表をまとめました。10月末に動画データや提出書類を事務局に送付。11月上旬に審査委員3人による厳正な審査の結果、最優秀賞には「不便だけど、だから楽しい 計画停電クレジット」を発表した川根高校(チーム名:Blackouters)が選定されました。優秀賞には「Jターンのすゝめ ~ジョブ型と兼業で人手不足を解消しよう~」の川根高校(チーム名:川根株式会社)、敢闘賞には「Small Hydroelectricity City ~災害時に向けて~」の浜松開誠館高校(チーム名:浜松開誠館高校SDGs部)がそれぞれ選ばれました。

最優秀賞の川根高校Blackouters
動画審査部門 参加校と発表概要
  • 川根高等学校/チーム名:Blackouters(ブラックアウターズ)
    「不便だけど、だから楽しい 計画停電クレジット」
    指導教諭:池田哲朗 研究メンバー:竹内清之輔、宮木優多、岸端陽汰
  • カーボンニュートラル実現に向けては、電気の使用量自体を減らす方策を考えることも重要だ。電力消費を減らすといっても、国民が楽しみながら取り組めることが肝要だ。そう考える中で、「不便益」という理論と出会った。あえて計画停電させると、削減分がクレジットとして発行され売却益を得られるしくみを考えた。
  • 川根高等学校/チーム名:川根株式会社
    「Jターンのすゝめ ~ジョブ型と兼業で人手不足を解消しよう~」
    指導教諭:渡邉憲人 研究メンバー:成岡煌斗、向笠波結、葛城健太郎
  • 就職活動をする中で、国家資格保有者の雇用について興味を持ち調べた。そこで、私たちが暮らす川根本町の課題に気づき、新しい働き方や雇用方法で人材不足を解決するのではないかと考えた。単なる過疎地域振興では持続可能性がないため、提案内容には環境への配慮を意識した。
  • 浜松開誠館高等学校/チーム名:浜松開誠館高校SDGs部
    「Small Hydroelectricity City ~災害時に向けて~」
    指導教諭:本間友也
    研究メンバー:松野紗季、チュウドリ・アンジェリ、増井瑛太、鈴木彩花
  • いつ来るか分からない大災害において、最悪の場合、災害後の生活が苦しくなることが一番に頭をよぎった。電気と水が使えず、今までの生活から大幅に生活が退化してしまう。少しでも安心して暮らせるように、静岡では身近な水を使って発電し、蓄電もできるのではないかと考えた。

萱野 貴広氏 静岡STEAM教育推進センター・理事
 動画審査部門の最優秀賞の作品は、自分で停電させることをあえて「不便益」として選択するという独創的なアイデアが印象的で、動画の見せ方も非常に工夫されていました。探究では何が問題なのかを発見する力が求められます。そして、その問題を解決するための実現可能性、現状と将来に考えを及ぼすことが大切です。これらをするには基礎的な知識と経験知が欠かせません。また、主張する際には調べたことと考えたことを明確に分け、自らの主張には数字や科学的な根拠が必要です。今後、さらなるレベルアップを図るためにも、自分たちが普段考えているゴールよりも一つ高めのレベルを設定して取り組むことも目指してもらいたいです。