第6回高校生が競うエネルギーピッチ

開催日:8月8日(月)、8月22日(月)

2022年度はオリエンテーションとエネルギー基礎講座①を組み合わせた講義を8月に開催しました。
エネルギー・ピッチに参加する高校生にとって初めての講義。オリエンテーションでは、開沼博先生(東京大学大学院 情報学環 学際情報学府 准教授)からエネルギー・ピッチ発表に向けた心構え、発表内容を検討するに当たっての考え方、歴史の転換点とエネルギーの関係、事実(ファクト)を踏まえることの重要性などについて講義して頂きました。
また、エネルギー基礎講座①では山本隆三先生(常葉大学名誉教授、国際環境経済研究所所長)からエネルギーと経済発展の関係、安定供給、経済効率性、環境適合(気候変動対策)のバランスの重要性や2050年の社会とエネルギーの在り方について丁寧に解説して頂きました。

開沼先生によるオリエンテーションの様子
山本先生によるリモート講義

開催日:9月9日(金)、9月16日(金)
テーマ:ネットゼロに向けた、世界のイノベーション

2022年度は大会テーマとして「SDGs達成に向けたエネルギーのイノベーションとは?」を掲げたこともあり、エネルギー基礎講座を拡充しました。
講師の出馬弘昭氏(東北電力事業創出部門アドバイザー、IZM代表)からは、イノベーションの意味からはじまり、ネットゼロ達成にはイノベーションが必要不可欠なこと、そしてシリコンバレーで起こっていることを実体験を交えながら説明して頂きました。また、エネルギー・環境分野のスタートアップ(クリーンテック)企業の事例なども数多く紹介して頂き、高校生が自らのアイデアを考える上で多くのヒントを与えて頂きました。

出馬氏はクリーンテックの変遷や事例を紹介した
出馬氏と参加生徒らの質疑応答の様子

【学校ごとの個別開催】
開催日:10月下旬~11月中旬 学校ごとのテーマに応じて順次実施

【フィールドワーク合同講座】
開催日:11月8日(火)
テーマ:地域資源を活用した循環型経済モデルの紹介

フィールドワークは参加校がそれぞれ決めた研究テーマに応じて、大学・企業の第一線の研究者や担当者などと直接対話を行う場です。
コロナ禍の影響もあり、基本的にはオンライン講義が中心でしたが、2022年度は学校での講義も2回開催しました。
講師の方からは「水素に興味を抱き、どうすればよいかを考え、ディスカッションをすることは、非常に良い機会であり、うれしい限りです」(東芝エネルギーシステムズ株式会社の佐藤純一氏)、「(スマートシティーについて)電柱・電線はどうなるのから、スマートハウスの詳細、モビリティー進化による運動不足、若者のみなさんに真に受ける街など幅広い質問・コメントをいただき刺激を受けました」(大阪大学大学院の太田豊特任教授)との声がありました。

高校名 講義の内容 ご対応頂いた
企業・大学・機関
科学技術高校 カーボンニュートラルに資する電極触媒の開発
~海水電解への応用~
カーボンニュートラルに向けた水素の役割
・山口大学大学院・中山雅晴教授
・東芝エネルギーシステムズ株式会社
駿河総合高校 バイオ燃料の事業開発について
菊川バイオガスプロジェクトについて
・株式会社ユーグレナ
・鈴与商事株式会社
榛原高校 ヒートポンプと蓄熱の仕組み ・東京電力ホールディングス株式会社
三島北高校 電気自動車とスマートシティー
火力発電の最先端技術について
・大阪大学大学院・太田豊特任教授
・株式会社IHI
焼津中央高校 ごみ発電技術と今後の技術開発の可能性と課題
少子高齢化社会のごみ処理の在り方と地域活性化
・JFEエンジニアリング株式会社
・国立環境研究所
静岡市立高校 使用済みプラスチックのアンモニア原料化事業
デザイン力を使った再生プラスチック製品の利用促進
・昭和電工株式会社
・大日本印刷株式会社
浜松開誠館高校 小水力発電の仕組みについて ・荏原商事株式会社

また、11月8日にはフィールドワーク合同講座をハイブリッド形式で開催しました。
講師の中井俊裕氏(ふるさと熱電株式会社取締役、静岡大学客員教授)は、熊本県小国町で進める地熱発電を題材に、地域資源を活用して得た財源を地元に投資し、未来につながる事業を創出していくサイクルなどを解説。持続可能で地域経済に結びつくビジネスモデルの考え方の前段として、講義冒頭ではビジネス視点でのSDGsの捉え方やエネルギーを巡る国際関係も説明して頂きました。
高校生からも「自分たちはいままでエネルギーの観点からしか調べていなかったので、どのように利益を出していくかという別の視点から話を聞けたのは非常に参考になった」(駿河総合高校)といった感想が聞かれ、講義後も熱心に質問する生徒がいました。

三島北高校の質問に答える大阪大学大学院の太田特任教授
出馬氏と参加生徒らの質疑応答の様子
合同講座は静岡市内のリアル会場とオンラインによるハイブリッド形式で開催した

開催日:11月19日(土)
場所:「グランシップ」(静岡コンベンションアーツセンター)11階会議ホール「風」

2022年度の予選会会場はJR東静岡駅近くの「グランシップ」。
まず予選会の前にオープニングランチが開催され、参加高校の教諭・生徒、審査委員が自己紹介を行い、昼食をとりながら歓談が行われました。
予選会はこれまで研究を進めてきた内容を初めて発表する場ですが、選抜をする訳ではありません。各校の発表に対して、当日出された審査委員や他校の教諭・生徒からの意見や指摘を踏まえ、それぞれの発表内容をブラッシュアップすることが目的です。
審査委員からは発表内容に対して厳しい指摘も。15分という長いようで短い時間の中で、自分たちの発表内容の要点をいかに的確に伝えられるかが問われます。それだけに、論理だった発表内容に加えて、発表の仕方などについても助言が聞かれました。
高校生たちは発表内容に対する指摘を整理し、手分けして調べ物をするなど、夜遅くまで修正作業を続けました。

オープニングランチでは教諭・生徒1人1人が自己紹介した
予選会で発表する浜松開誠館高校の生徒
他校の発表内容に対する意見を付箋に書いて貼り付けていく
発表後の修正ミーティングでは、個別に審査委員の助言も聞きながら内容をブラッシュアップした

エネルギー・ピッチでは予選・本選に「グラフィックレコーディング」を導入しています。各校の発表を聴きながら、その要点を第三者の視点から絵にしていくことで、発表内容の「見える化」に加えて、発表で欠けている点など当事者も気づかなかったことを視覚的にとらえることができる仕組みです。審査委員や他校の教諭・生徒からは率直な疑問や指摘も多く出され、毎年ですがボードは付箋でいっぱいになります。

発表内容はグラフィックレゴーディングでまとめられた
グラフィックレコーディングを参考にしながら修正作業が行われた
予選会の会場

開催日:11月20日(日)
場所:「グランシップ」(静岡コンベンションアーツセンター)1階中ホール「大地」

2日目の本選は正式な発表の場です。会場は「グランシップ」の中ホール「大地」で、今年は一般の方も傍聴できる形で開催しました。
開会後、まず総合コーディネーターの開沼博氏がこれまでの学習の経過、各校のフィールドワークの実施状況、予選会の様子などを説明しました。各校は昨日の予選会で出た指摘などを踏まえ、不足していた部分を補ったり、スライドを変えて論旨を整理するなど、それぞれラッシュアップした内容を発表しました。
質疑応答では発表内容の妥当性や実現可能性、コストに対する考え方など、審査委員との間で濃密なやり取りが繰り広げられました。発表内容はごみ発電、スマートシティー、プラスチック、ヒートポンプ、水素など多彩で、来場者の方々も熱心に耳を傾けていました。
また、審査時間中はクイズ作家の日髙大介氏が「クイズ発想で楽しみながら学ぶ!」と題して講演しました。
厳正な審査の結果、ごみの水分をまとめて乾燥させて発電効率を向上するスーパーごみ発電による超循環型まちづくりを提案した焼津中央高校が初出場ながら最優秀賞に輝きました。この他、優秀賞には三島北高校、科学技術高校、敢闘賞には榛原高校、静岡市立高校、静岡新聞社賞は駿河総合高校、電気新聞賞には浜松開誠館高校がそれぞれ選ばれました。

本選で発表する三島北高校の生徒
発表内容に真剣なまなざしで聞く審査委員
最優秀賞に輝いた焼津中央高校の先生と生徒
クイズ作家の日髙氏が特別講演を行った
本選終了後の記念撮影

焼津中央高等学校

発表テーマ:「スーパーごみ発電~新しい超循環型まちづくり~」
指導教諭:東友貴
研究メンバー:濟藤康太朗、田森万葉、野田直希、原川夢叶、疋田知也、松浦朔太郎、米澤和真

日本はプラスチックなどのリサイクル率が低い。その理由としてはリサイクルのコストが高いことやごみ焼却技術のレベルが高いことが挙げられる。それゆえ、日本でのごみ処理法のベストは焼却であり、日本の誇る焼却技術を生かした未来を創造しようと考えた。
国内にはごみ処理場が約1000施設あるが、このうち発電できる焼却施設は約30%で、発電効率も10%程度と低い。発電効率が悪い原因は、ごみに含まれる水分量が多いこと。この水分を焼却の前に飛ばすことで発電電力量を増やそうというのが、我々が考えるスーパーごみ発電だ。ただ、家庭用ごみ乾燥機を全世帯に普及させるにはコストや時間がかかる上に、電気も使用する。また、家庭ごみよりも産業廃棄物の方が遥かに量が多く、汚泥などを乾燥できれば発電量の増加が期待でき、埋め立て処理に伴うメタンガスも発生せず、CO2削減につながる。このため、焼却施設に巨大乾燥装置を設置し、まとめて乾燥させた方が良いと考えた。熱源としては、現状はごみ焼却施設で捨てられている排熱を有効活用する。ごみ発電の効率向上で生み出された電力や熱を活用し、新たなまちづくりを行っていきたい。例えば、近隣住民の電気代を無料にしたり、様々なレジャー施設をつくる。私たちが計算した結果では、これは決して夢物語ではなく現実的だと分かった。これにより、高齢者の健康促進、雇用問題の解消、地域経済の活性化につなげていく。電気代が無料になれば若者の経済的な負担も軽減され、結婚率も間接的に増加し、子どもが多い元気なまちづくりも可能となる。
2050年の未来は、こうしたスーパーごみ発電による超循環型まちづくりによって、持続可能な社会を築き上げることができる。

三島北高等学校

発表テーマ:「Attractive city」
指導教諭:山梨睦
研究メンバー:安藤海砂、大矢仁湖、落合結愛、藤本晴香、増野光希、米野ひま莉

日本は化石燃料による火力発電に依存しており、今後は再生可能エネルギーを増やすべきである。その一環としてスマートシティーに注目した。
スマートシティーのキーポイントになるのは太陽光パネルと電気自動車(EV)だが、それぞれ課題がある。
このため、私たちはペロブスカイト太陽電池を搭載した新たなEVを提案したい。ペロブスカイト太陽電池は将来的に価格も下がり、発電効率も向上する見込みだが、酸素や水に弱い課題がある。そこで、優れた透明性があり、加工がしやすいメタクリル樹脂を組み合わせることを提案したい。
この組み合わせによって、EVだけでなく窓ガラスなど家の様々な場所に取り付けることが可能になる。ただ、現在もスマートシティーの導入は進んでいない。その理由は若者たちがワクワクするものがないから関心が向いていないと私たちは考えた。そこで、スマートフォンで見ているユーチューブなどの画面を空間に映し出すエアリアル・スクリーンなどが2050年に実現できれば、若者の関心を集めることができるのではないか。
夢のような話だが、既に米国のスタートアップ企業はスマートコンタクトレンズというものを開発しており、2050年にはこうした技術がもっと発達しているだろう。スマートシティーの普及には住民の賛同が得られるかも問題だが、現在の高校生は世界の深刻な問題について深く学んでおり、新しい街の政策は今よりも受け入れやすく、実現可能性は高くなっているはずだ。

科学技術高等学校

発表テーマ:「海水から生まれる水素の可能性」
指導教諭:内田匡
研究メンバー:大石悠太、恩田颯希、古永家章悟、髙田吉寵、西井千逸、深味倖朱

日本がカーボンニュートラルを実現するため、私たちは水素シティーをつくることを提案したい。
水素は焼却時にCO2を排出せず、発電のほか、製鉄や運輸など様々な分野で利用可能だ。ただ、現在の水素製造は水蒸気改質法が主体で、CO2を排出することから環境に良いとは言えない。そこで、私たちは海水を電気分解して水素を製造することが考えた。海水は枯渇する恐れがなく、島国の日本にとってエネルギー自給率の向上にもつながり、海外の情勢変化にも左右されない。海洋深層水をくみ上げれば、プランクトンなど生態系への影響もないと考えられる。
海水を電気分解するには主に3つの技術がある。このうち、SOEC(固体酸化物形電解セル)は高温水蒸気で海水をそのまま電気分解でき、製造効率が他の方法よりも高い。このSOECと製鉄所を組み合わせれば、SOECに必要な熱の一部を排熱で賄うことができ、CO2も排出しない。日本の沿岸部の水素シティーとして、余剰の水素は近隣の石油化学工場でも利用できる。また、PEM(固体高分子膜)による電気分解は、日本の内陸部で淡水を使って水素を製造するケース、途上国沿岸で海水を再生可能エネルギーによって淡水にろ過して、水や水素の製造を行うケースが考えられる。水素は燃料電池自動車やアンモニア生成にも活用でき、途上国の経済発展にもつながる。まずは、ある程度の技術が整っているPEMによる水素製造を日本国内で普及させ、その後、途上国にも設置して国際社会に貢献する。
将来的に、SOECの技術が確立されれば房総半島や北九州などの工業地帯に水素シティーが形成できる。その結果、水素の需要が増えて価格が安くなり、水素が普及するだろう。

榛原高等学校

発表テーマ:「グリッドスケールの効率化~再生可能エネルギーの未来~」
指導教諭:楠木翔
研究メンバー:安達雄也、植田貴翔、岡田舞、落合陽菜、塚本俊輔、山田翔央

私たちは「グリッドスケールの効率化」「再生可能エネルギーの未来」という研究を進めてきた。今回、排熱などの無駄をなくし、カーボンニュートラル実現に近づくような提案をしたい。
今後は化石燃料に依存せず、再生可能エネルギーで電気や水素を作ることに注目した。ただ、再エネは不安定で、蓄電も十分にできない。私たちは蓄電を安定させるために、電気を熱に変換する蓄熱技術、その中でも石(玄武岩)に熱を貯めるデンマークのグリッドスケールという新たな技術を研究した。石は温度変化に強い耐性があり、貯蔵できる熱量とコストのバランスが良いなど5つの利点がある。グリッドスケールとは電気を熱に変えて充電・放電できる装置。玄武岩を粉砕したシリンダー内の温度を再エネの余剰電気を使ってコンプレッサーで600度Cにして充電し、逆に放電時はその熱で蒸気発電機を動かす。従来の蓄電池よりもコストが安く、効率が良く蓄電できる期間も長い。私たちはもっと効率的にグリードスケールを利用できないかと考えた。例えば、工場の排熱や天然ガス気化作業時の冷気を活用する。それにより、再エネ以上の電気が貯蔵できる。また、蓄熱した石を大型トラックで輸送し、その熱をすべて電気にできると仮定すると、理論上はCO2排出を伴う輸送距離が東京ー京都間(約500km)よりも短ければ火力発電よりもエコに電気を作ることができる。つまり500km圏内の地域であれば、臨海部でできた熱エネルギーを再エネが多い地域のグリッドスケールに運んで活用するということが考えられる。
現在、グリッドスケールは実用化への実験が行われており、2025年には終了する予定。これが成功すれば2030年までには運用が始まるだろう。グリッドスケール単体でCO2をゼロにはできないが、このシステムによって再エネが拡大すればカーボンニュートラルに近づくことができる。

静岡市立高等学校

発表テーマ:「プラスチックゴミのエネルギー化について~環境にも、私たちにも優しいプラスチックリサイクルの定着~」
指導教諭:井出悠斗
研究メンバー:岩本幸知、小川莉紗、花田和佳、柳琴水

私たちはグミなどのお菓子が好きだが、そのパッケージの多くはプラスチックで作られている。国内で廃棄されるプラスチックは約850万トンで、その半分近くが家庭から排出されるプラスチックパッケージだ。
国内ではサーマルリサイクルが全体の半分以上を占めており、今後はケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルを増やしていく必要がある。マテリアルリサイクルは理想的で、デザイン性の高い再生品を開発すれば促進につながる。ただ、すべての廃プラスチックをマテリアルリサイクルで再利用するのは難しい。ケミカルリサイクルは施設の規模が大きく、コストが高いという課題がある半面、アンモニアなどが製造できる。アンモニアは肥料やアクリル系の繊維などの原料になるほか、CO2を排出しない燃料として期待されている。このため、国内では3%しか利用されていないケミカルリサイクルを人々の暮らしにどのようにつなげていくかを考えた。
1つ目はケミカルリサイクルで作られた炭酸ガスを地域の温泉施設などで活用すれば、プラスチックリサイクルの良さを実感してもらえる。2つ目はケミカルリサイクル施設が1つの機械として各家庭に備え付けられるようになれば、すぐに処理などができる。機械は高価になるかもしれないが、現状でもプラスチックを製造・利用している事業者はリサイクル費用を負担しており、この枠組みで機械をリースする方法などが考えられる。3つ目は地区で設置できるぐらい小型化できれば、ゴミ収集が必要なくなる。アンモニアの国際価格は上昇しており、1トン当たり約23万円。アンモニアには十分な価値があるので、今後はケミカルリサイクルを行うためのコストを低くしていく必要がある。
ケミカルリサイクルの有用性を身近に感じて利用率を上げ、マテリアルリサイクルとも組み合わせることで、より良いプラスチックのエネルギー化が行われていくはずだ。

駿河総合高等学校

発表テーマ:「廃油でバイオ燃料製造」
指導教諭:豊田稜介
研究メンバー:久保田海央、鴻池早織、駒場史音、髙橋光、田嶋結衣、土屋友花、服部碧生、藤原宏紀、堀瑠聖、吉岡美奈、渡辺隼也

私たちは廃油でバイオ燃料製造することを提案したい。現在は化石燃料に依存しており、乗り物によるCO2排出量が多い。廃油も様々な課題から十分にリサイクルできていない。これらを解決するため、ミドリムシバイオ燃料を廃油に混ぜて再利用することに着目した。ミドリムシオイルはコストが高いため、使用済み食用油と混ぜてコストを下げる。エネルギー密度が高く、既存燃料のように使えるため、将来的に電気自動車が普及するのであれば、船舶や航空機での利用に適している。仮に、ミドリムシバイオ燃料で代用できれば、CO2排出量を約1500万トン減らすことが考えられる。ミドリムシは食料と競合する心配がなく、CO2吸収量も多い。また、日本の農地面積は他の国と比べて小さく、他のバイオ燃料の原料となるトウモロコシなどから燃料を製造するのは困難だ。ミドリムシは海水でも育てることができ、海洋マルチプラントを建造して培養する構想もある。ミドリムシバイオ燃料はのコストを下げるには、製造プラントを大型化するとともに廃油を安く仕入れる必要がある。廃油を安く仕入れる方法としては、一般の方からお金を集めてバイオ燃料を製造し、その返礼品としてサプリメントなどミドリムシ製品を提供する仕組みを考えた。また、国の補助金を活用して、廃油をポイント制で回収する仕組みも提案したい。スーパーマーケットや公園などに廃油回収用ステーションを設置し、既に行っている天ぷら油の回収のような活動を行う。ミドリムシバイオ燃料だけで船舶や航空機の燃料生産が足りない場合、将来の技術革新が期待されるDAC技術を活用した合成燃料で補えば安定した燃料供給が可能になると考えた。今後、バイオ燃料の消費量は現在の6.5倍増加すると予想されている。そのためにも、技術の発展と個人個人の考え方を変えていくことが大切だ。

浜松開誠館高等学校

発表テーマ:「シン・小水力発電~小水力の可能性~」
指導教諭:加藤幹大
研究メンバー:鈴木彩花、チュウドリ・アンジェリ、松野紗季、増井瑛太、山田周次郎

私たちは最初に水洗トイレの水圧や地域全体の排水を電力に変えるテーマを考えた。ただ、その発電効率は悪く、そこから得られる電力も微々たるもので、導入できる場所も限られている。そこで、水を使った発電の中でも小規模な水力発電に着目し、多くの場所に小水力発電を普及できればと考えた。
日本では年間発電電力量のうち再生可能エネルギーの割合がこの10年間で2倍、全体の約21%になった。しかし、小水力発電の割合はずっと約2%のままで、何か画期的なことが起きないと今後も変化しないばかりか、むしろ減少する可能性すらある。このため、私たちは小水力発電の普及に向けて、工業用排水、海水、火力発電を使った3つの小水力発電を提案したい。
工業廃水ではプロペラ式発電機、海水は海水揚水発電、火力発電は放水時の勢いとクロスフロー水車を使った小水力発電を考えた。また、小水力発電の普及にはメンテナンスフリーも必要だ。今後は少子高齢化がさらに進み、小水力発電の管理費などが上がり、採算面から設備が放棄される可能性がある。メンテナンスフリーが実現できれば、管理費や人件費が抑えられるほか、現在は採算面で設置できない場所にも小水力発電を普及できる。現在も枯草などをかき上げる除塵設備を使用した小水力発電はあるが、当面はまず腐食防止の素材開発でメンテナンス回数の減少を図り、その後、2050年までに現在研究が進んでいる自己修復機能の本格実装が開発され、メンテナンスフリーが実現できると思う。
現在のままは頭打ち状態の小水力発電だが、まだまだ可能性はある。他の発電方法と比べれば塵のようだが、様々な地域で普及ができることで塵も積もれば山となる。これら提案が実現できれば、身の回りにある水の流れがエネルギーになる未来になるだろう。

山本 隆三氏 常葉大学名誉教授
今年は非常にレベルが高く、どの高校もよく調べて勉強していました。その中でも、焼津中央高校は発表方法も芝居仕立てで面白く、工夫しておりチームワークも良かったと思います。他の高校も非常に良かったです。スーパーごみ発電、スマートシティー、水素シティーなど、みなさんが発表したことは実際にすぐに社会で使えそうな話があったと思います。そういった点も頭に入れながら、今後の研究や進路をぜひ考えて欲しいです。

郡司 賀透氏 静岡大学教育学部准教授
初めて参加させて頂きましたが、エネルギー・ピッチの発表はレベルが高いと感じました。2050年は高校生のみなさんにとっては、まもなく来る時代。最近は夢を見ることが少なくなっているのかもしれませんが、今日のアイデアを自分の学校だけでなく、いろいろな学校の人と交流していく中で伝えていき、2050年を楽しい時代にしてもらいたいです。

萱野 貴広氏 静岡STEAM教育推進センター・理事
今回、高校生のみなさんが取り組んでくれた問題は、科学や技術だけでは最終的に解くことが難しく、みなさんを含めた社会的な合意というものが必要になってきます。ここに至るまで、高校生のみなさんは多領域にわたる研究や調べをやってきたと思います。この経験は、これから2050年の中心となるみなさんの大きな糧になると思います。

築地 茂氏 静岡新聞社編集局論説委員兼編集委員
発表の動機付けを説明する部分で、お菓子が好きとか身近にあるごみ問題など、そこからエネルギーを考えるということは、これからのみなさんの生活にとってもすごく大事なことです。エネルギー問題というと難しく聞こえますが、そもそもは身近なところにあるもので、最終的に私たちの暮らしそのものにつながります。そういうことも考え、これから日々の生活を充実させていって欲しいです。

間庭 正弘 日本電気協会新聞部(電気新聞)新聞部長
予選会で受けた指摘を真剣に考えて、夜中まで修正作業をしたということは本当に素晴らしいことだと思います。これからの社会問題はたぶん一人では解決できません。この経験を生かして、みんなの知恵を持ち寄って解決するという取り組みが本当に必要になってきます。また、多くの人の前で発表するということも非常に良い機会だと思います。考えていることや思いついたことを思い切って口に出して提案してみるということが、社会を動かしていく力になると思います。

開沼 博氏 東京大学大学院情報学環准教授(総合コーディネーター)
いろいろと評価は分かれましたが、大きく2つポイントがありました。1つがきちんと全体像を見つつ、小さな具体例を積み上げられるかという点です。2050年に至る30年間という時間軸、あるいは日本や世界の動きがどうなっているかという全体像を捉えつつ、個別テーマの細かい部分も全体像と関係があるという説明ができるかで評価が分かれました。もう1つは根拠で、いかに説得力を持たせられるかが大切です。ある技術とある技術が組み合わさると新しい社会像になって希望が感じられると発表する際にも、きちんと数字で積み上げて説明すると、それを応援しようという気持ちになれます。こうした「全体像と具体像を往復する」、「量的根拠などを積み上げていく」ということは、大人になっても絶対に必要なスキルです。今回、学んだことを今後の人生にぜひ生かしていってもらいたいです。